1.まえがき 「今すぐに植林域の針葉樹の間伐を!」


高野信男さんが岡山県の主要3河川の畔林調査を始められてから、8年の歳月が流れた。高野さんは、その間、2009年に旭川流域の報告、2013年に吉井川流域の報告を終えられたので、この高梁川流域の報告は第3弾にあたる。高野さんの報告はすべて同じ形式で記載されており、それぞれに地形図(1/50,000・1/25,000)と写真が添えられている。地形図には各支流の畔林が植林域、混交林域、自然林域に色分けして塗色され、また河川は砂防堤・護岸壁・落差工・堰などの人工の構造物も、多くの写真と共に逐一記入されている。さらに、常時の流水量の多少、流水は清浄かどうか、流れに棲息する小魚の栄枯盛衰と実態などを、聞き取り調査も加えて、簡潔に記述されている。こうして、高野さんは、畔林の現状にとどまらず、山麓地域の自然誌をありのままに報告しておられる。
  これらの報告を比べると、どの河川も一般に水が不足気味で、清流は少なく、各河川の特異性は無いに等しい。 河川の自然環境は、もともと、その地域の地質、地形、気象条件などの違いが反映して、それぞれに個性や特異性が認められたのに、今は認めにくい。岡山県の各河川が個性的であったのは前世紀の中頃までのことであった。あの頃、県北地域に手つかずのままに拡がっていた“自然林”の大部分が今は植林域に替わり、残された自然林のごく一部は“原生林”とも呼ばれている。以前、“自然林”のあちこちで喉を潤した“湧き水”も渓流も、今は殆ど涸れ、多くの支流の平常の水量は減って、諸所で小さく淀み、河原の石ころは泥と草に覆われて見えなくなった。最近は、例年、大雨が大量の泥を一気に海へ運び、雨水も泥水も山麓部には殆ど留まらない。一方で、人の生活を守るために、河川の護岸工事や堰などの土木工事は絶えず進められている。結局、最近の河川は自浄機能を著しく失ってしまい、“水清き川の流れ”が珍しくなった。
  このように、自然全体の姿が眼に見えて変化し始めたのは、主に、前世紀の最後の四半世紀頃から後の事であろう。もう少し、遡るかもしれない。いずれにしろ、自然環境がわずか四半世紀前後の短い期間にかくも急速に悪化し、均一化された、その変化の全てを自然界の栄枯盛衰の結果、と説明するのは難しい。その変化の速度が如何にも速すぎる。とすれば、“人が自然の営みを狂わした”と考えるのが正しいであろう。 これは、高野さんの報告から得た、私の率直な結論である。 今後は、自然自身による自然環境の修復・復元を僅かでも早めるために、人が手伝う必要がある、と私は思う。
  山麓はあらゆる生物の“ゆりかご”である。山麓を現在のように渇いたままに放置し続けると、全ての生物の“棲み家“が近い将来に消えてしまう。まず、山麓の潤いを急いで恢復せねばならない。手始めに、針葉樹林の間伐を勧めたい。間伐して空いた山肌に落葉樹を植えれば、地面は潤う。湧き水が戻り、大〜小の動植物に快適な生活の場が戻る。山に残された針葉樹は自由に根を張り、大きく成長できるし、あのいやな“花粉”も減る。

     NPO法人:エコ・ギア   顧問:濡木 輝一(岡山大学名誉教授)

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