6.あとがき


先に旭川・吉井川水系の河川と渓流の畔林調査を終えて、最後に、高梁川水系のうち、JR伯備線方谷駅から上流の地域の調査を2012年9月〜2013年10月に実施した。調査内容と手法は前2河川と同じで、魚類の棲息状況についてはできるだけ地元の方々の話を聞き、その聞いたままの魚類の名称で記載した。従って、魚類の名称はそれぞれの地域で古くから慣用されてきた呼び名になっているので、その点をご了承いただきたい。
  高梁川水系は鳥取県境に沿う標高800〜1,000mの脊梁山地と、その南側に広がる標高600〜400mの起伏の少ない吉備高原面を開析して流れる山間水系である。このため、高梁川流域で川沿いに平地のある地域は、JR姫新線沿いの小坂部地区、JR芸備線沿いの下神代〜哲多町大竹地区、JR伯備線沿いの石蟹〜新見市街地などとごく少なく、他の流域は深いV字渓谷になっているので、農地や集落もごく小規模である。反面、吉備高原面には起伏の少ない丘陵と緩傾斜地が広がり、小規模な田畑と集落が点在し、ここは人の生活の場として利用されている。
  高梁川には、瀬戸内海から新見市街地まで河川域内に人工の構造物が無いので、魚の遡行は自由であるが、新見市上流に千屋ダム、その支川の小坂部川に小坂部川ダムと大佐ダム、支川の西川に河本ダム・三室川ダム・高瀬川ダムと合計6ヶ所の大きなダムがあり、ここで魚の移動が断たれている。また、ダムよりも下流に棲む魚は、ダムの底水の放流及び低水温による影響、石灰岩採掘場および市街地からの汚水や下水処理水の放流、植林地からの土砂の流出と水質の劣化などにより、川床の石に泥が沈着して苔や藻などの生育が悪くなり、魚の餌が減少したため、従来からの魚類の棲息数は著しく減少したとのことである。
  新見市街地および大きなダムよりも上流の川には、自然のままの環境がよく残った流域と、護岸が整備されて魚の棲みにくくなった流域がある。前者はV字渓谷を呈する小坂部川の大佐ダムから上流域、JR備中神代駅から北の西川流域などで、川は清流で魚の棲処が多く、従来の魚が居り、川漁師もおられる。一方、後者はJR沿線および吉備高原を流れる川などである。川沿いに平地が開けて農地と集落があり、川の護岸壁と落差工が整備されて、魚類の棲み場は無く、モツ・ドロバエ以外の魚はほとんど見られない。しかし、オオサンショウウオは高梁川水系のほとんどの川に今も棲み、その数は以前よりもむしろ増加しているとのことである。
  次に、調査地域の植生は、新見市北の脊梁山地に広がるスギ・ヒノキの植林地域、新見市西の下神代から哲多・哲西町を中心とする混交林地域、新見市南東部の自然林主体地域に三大別できる。しかし、植林が単独で広大な面積を占めている所は少なく、自然林があちこちに残されている。また混交林は、植林と自然林が筋状・斑状に配置されており、自然に配慮した植生となっている。
  このように、高梁川水系は、旭川・吉井川水系に比べて山地の開析があまり進んでおらず、平地部が最も狭い。このため、この水系には人の集まる場所として新見市の市街地があるのみで、それ以外の地域には小さな集落に民家・農地が点在し、山地と丘陵地の広がる自然環境がよく残されている。にもかかわらず、多くの川に護岸壁が造られたため、そこは苔や藻の育たない川となり、従来からいる魚種の種類も数も大きく減少している。これは人間によるダム建設と川の護岸整備工事、生活・産業活動による汚水・排水の増加、植林による谷川の減水と水質劣化などが影響しているものと考えられる。
  大佐ダムの上流域や下神代から北の西川流域のように、自然のままの川の流れを留め、従来からの魚類が棲んでいる貴重な川の環境をいつまでも残し、また山のスギ・ヒノキの植林の間伐を勧めて、ブナやクヌギなどの茂る自然林の環境に1日も早く回復したいものである。

  本報告書の完成にはNPO法人エコ・ギアの濡木輝一顧問に多大な労を費やしていただき、小笠原照也代表理事、福田富雄理事ほか各会員に、多くのご指導と励まし、ご協力をいただいた。さらに、本報告書を校正してインターネットに載せる労は高野聖之氏にお世話になった。これらの方々に厚くお礼申し上げます。

     2014年5月      高野信男 (NPO法人:エコ・ギア会員)

ホームページ作成素材 Cool Liberty